「化学教育ジャーナル(CEJ)」第6巻第1号(通巻10号)発行 2002年 7月 31日/採録番号 6-4/2002年 5月 30日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html



校種を超えた化学教育への連携
石 川 化 学 教 育 研 究 会
(連絡先:金沢大学教育学部附属高等学校内
 ICEレター編集部 樫田 豪利
kashida@ed.kanazawa-u.ac.jp)
1.はじめに

 多くの地区における化学教育への取り組みは,校種ごとに行われていることが多く,校種を超えた取り組みはあまり行われていない。そのような中,石川化学教育研究会は校種を超えて,先生方が集まり,小学校から大学までの化学教育についての情報を交換し,また,協力し合うことで化学を担う先生方の資質の向上と次世代を担う人材の育成とを目指してきた。
 会の運営は,大学,高等学校,中学校,小学校や一般の化学に関心のある方々によって行われている。事務局の運営や会合には大学の先生方の努力に負うところが大きいが,見学会,生徒発表会の運営など,一人一人の会員の力によって成り立っている。会としての仕事は多いが,それらを会員みんなで分担することで,できるだけ一人一人の負担を軽くするように配慮している。発表会ひとつを取り上げても,会場の確保,後援依頼,募集,プログラムの作成,プログラムの印刷,賞状・楯の準備,機材の用意,記録,要旨集の編纂など多肢にわたる。これらの分担を多くの会員ができる範囲で負担しながら続けてきた。このように多くの人の協力によってこの会が続けられたことに感謝したい。ここで,石川化学教育研究会についての紹介とこの研究会が大学,中学高校の理科部,小学校の児童による理科研究にとってどのような役割を担ってきているかについて述べる。それとともに,各地のこのような会が連携しながら,日本における化学教育が活発に行われ,次世代を担う人材が育つことを,また,化学という分野の裾野が広がることを期待してやまない。
 なお,この報告は,会員の先生方からの原稿をまとめたものである。

2.石川化学教育研究会の活動について

 石川化学教育研究会(以下,当研究会という)は,石川県における化学教育の一層の振興を目的とする教育団体として1993年(平成5年)5月に発足した。その発足の経緯は,日本化学会発行の「化学と教育」誌,第40巻11号(1992年)の796-797頁に紹介されている。
 当研究会は,発足までの長年の積み重ねを基礎に,小・中・高校・大学・教育行政機関の化学系教育関係者に入会いただき(年会費1,000円),会員が協力し合って各種の化学系の啓発・普及活動をボランティア精神で展開してきた。その活動内容は次のとおりである。

2.1)児童・生徒を対象とする事業
2.1.1 石川地区中学高校生徒化学研究発表会
  この発表会は,当研究会の発足前の1986年(昭和61年)から毎年1回ずつ開催されている。児童・生徒の化学系の課外活動・自由研究の成果に対して大学教員の助言等がほしいという小・中・高校の教員の願いや,小・中・高校・大学の教員の交流を深めたいという願いがこの発表会を実現させた。また,この発表会の実績が石川化学教育研究会発足の大きな原動力となった。
 この発表会は児童・生徒の研究成果の優劣を競うコンクールではない。児童・生徒が部の活動や自由研究で行った化学系の研究に適切な助言をして,ごく自然に化学的なことに対する興味と関心を一層深めてもらい化学研究のおもしろさを体験的に知ってもらおうというのが主旨である。
2.1.2 出前講座
 当研究会の会員が所属する学校の児童・生徒を対象とした化学講演会や化学実験指導に講師を派遣している。たとえば,大学の教員が高校・中学の文化祭や総合学習で最新の化学のトピックスなどを分かりやすく話したり,化学(科学,理科,理化)部の指導・助言に出かけたり,高校の教員が中学校・小学校で化学実験の指導を行ったりしている。小・中・高校で講師を招くための予算措置ができなくても,当研究会の経費負担で講師を派遣している。
2.2)一般市民も対象とする事業

 一般市民対象の公開講座などを企画し,金沢大学大学教育開放センターの公開講座などの態様で一般市民に化学の啓発活動を行っている。また,地域的な題材から科学と化学に興味と関心を持ってもらうために,石川化学教育研究会編の「科学風土記 ―加賀・能登のサイエンス―」を裳華房のポピュラーサイエンス・シリーズの1冊として1997年に出版した。

2.3)会員を対象とする事業
2.3.1 講演会・勉強会・化学関連施設見学会
 そのときどきの話題や課題などをテーマとする講演会・勉強会を開催したり地域の化学関連施設(大学の研究室や酒造所・液晶工場など)を見学したりして化学教育の能力向上に努めるとともに会員相互の親睦を深めている。
 
2.3.2 機関紙「ICEレター」の発行
 いろいろな化学教育情報などを会員に提供するとともに化学教育の在り方や改善について会員相互が意見を交換する場をつくっている。
 
2.3.3 石川地区中学高校生徒化学研究発表会の企画・運営・要旨集の配布
 石川地区中学高校生徒化学研究発表会(1991年から特別招待の小学生の発表を加え,1995年から富山・福井両県の中学・高校の発表も招待)の企画・運営を会員のボランティア活動により行うことによって会員相互の協力・連携を強めている。また,発表会の要旨集を会員に無料配付している。
 
2.3.4 石川県教育・自治会館の会議室等利用(使用料無料)の手続
  当研究会は,石川県教育委員会及び石川県教育・自治会館に認知・登録されている教育団体である。石川化学教育研究会の会員が石川化学教育研究会の目的に沿った会議等を行うとき,石川県教育・自治会館の会議室等を無料で使用することができる。ただし,石川化学教育研究会の事務局を通じて石川化学教育研究会会長名で利用申込を行う必要がある。
 
2.3.5 会員の化学教育活動に対する相互支援
 会員相互に実験装置・器具,資・試料などを利用・提供し合ったり,研究調査や催事の広報でお互いに協力している。必要であれば,事務局で斡旋的業務も行っている。


 このように,当研究会では校種を越えた幅広い連携によって化学の啓発活動を展開している。なお,当研究会の財政は,会員からの会費(年会費1,000円)と寄付金(「科学風土記」の印税や出前講座で謝礼があったときの謝礼の一部など)のほか,日本化学会近畿支部からの補助金,各種科学教育支援・振興組織等からの寄付金・協賛金などによって維持されている。また,当研究会の主要な事業は,日本化学会近畿支部・石川県高等学校文化連盟理科部との共催であるほか,石川県教育委員会・金沢市教育委員会・石川県市町村教育委員会連合会・石川県理科教育研究協議会・石川県高等学校理化研究会・石川県科学教育振興会・(財)石川県文教会館(以上,順不同)の後援のもとで行われている。
 

3.大学にとっての研究会

 石川県における小・中・高校・大学の理科教育をめぐる連携の歴史は新制大学としての金沢大学の発足時にまで遡ることができ,その歴史の過程で当研究会が誕生した。発足時の金沢大学には石川県内の科学教育振興・校種を越えた理科教育の連携のために献身的に尽くした教員が何人もいて,その伝統が成果とともに今日まで金沢大学に連綿と受け継がれて来た。成果があったから教員の世代交代を経ても連携が途切れることがなかった。
  さて,研究会が発足してから今日まで,それほど強くもないが弱くもない小・中・高校・大学の化学教育の連携が研究会を軸に石川県で長く続いてきた理由として,それなりの成果をあげることができたこと,その成果が地域の教育界や社会から評価されてきたことが挙げられる。また,成果や評価に精神的に支えられた大学教員が研究会維持のための雑務の苦労から逃げなかったことや,日本化学会近畿支部の財政的バックアップも理由として見逃すことができない。さらに当研究会の成果や反響が当研究会に加わってボランティア的に活動する大学教員の間の協力関係を強くして,うまい具合に活動が回転してきた。特定の個人に決して無理をさせなかったことが大きい。最近は,勤務先の校種に関係無く雑務を多くの会員で分担して,個人の労務負担を軽減するよう工夫をしているところである。
 ところで,大学教員にとって自分の研究成果が学界で評価されること,学生がうまく育って社会で活躍してくれること,そして社会に貢献できることが生き甲斐であろう。昨今の大学評価・教員評価において研究業績のみならず教育・社会貢献も問われていることとも一致する。しかし,当研究会に加わる大学教員は,そのような評価があるから活動をしてきたのではなく,校種を越えた教職員・児童・生徒・学生の交流に他のことからは得られない相互リフレッシュ効果を得ることができたから活動を続けてきたのである。大学教員にとってはFD(Faculty Development,教育方法改善)機能があったと言ってよい。また,大学教員にとっての最大の喜びは,研究会の活動を通じて多くの児童・生徒が化学に興味を持つようになって生徒の中から化学系の学部に進学した者が少なくないことである。さらに大学院に進んだ後,大学教員や中・高の教員になって連携効果の二次増幅が始まっており,当研究会の大学教員にとって教師冥利に尽きることである。そのほか,大学が児童・生徒・市民向けの啓発事業を行うとき,小・中・高校との連携パイプが広報や参加者増にも役だっている。
 初等・中等・高等教育を通じた理科教育の一貫性,理数科離れ対策,後継者養成などを構えてかかって目標にしなくても,校種を越えた教職員・児童・生徒・学生の交流を通じて相互に親しみ合い,教員が児童・生徒・学生に対して何ができるのか校種を越えて一緒になって語り合うことが重要である。それによって日常の中から地域の小・中・高校や社会から頼りにされる大学の顔が見える大学になっていくことができる。

4.中学高校生にとっての研究発表会

 学校における化学部にとって,この発表会は年間の活動の節目となっている。この発表会に向けて,まとまった実験がしたい,成果を出したいという気持ちが強くなる。納得のいく結果が得られるまで,繰り返し実験しようという意欲は目標がないと出てこないが,2学期末に開催されるこの発表会が,春から秋にかけての活動の目標としてかけがえのない位置を占めている。また,発表した内容を学校の生徒会の機関誌に掲載してもらうことで,他の生徒達に化学部の存在をアピールすることができる。活動が目立たない部であるが,発表した内容を全校生徒に知ってもらうことで,その活動が全生徒に認識され,部員の意識の向上と活動の活性化に寄与している。そして,後で送られてくる要旨集(今年,いままでの1000ページ分の要旨集がCD-ROM化された)は,発表した生徒にとっては大切な思い出であり,新しく部に参加した生徒にとっては研究課題を決めるときの資料となっている。もし,この発表会がなかったならば,面白い実験をして楽しかったとか,友達と話し合ったり,試験前はみんなで実験室において勉強したりという部活動になってしまっていたと思う。
 実験したことは,まとめをすることで,何をしていたのかが整理され,実験の方法などにおける不都合な点が見えてくる。そのことによって,次に何をすべきかが見えてくる。その機会がこの研究発表会である。また,この発表会では,日ごろ話をすることのできない大学の先生方からいろいろとアドバスがもらえるということも生徒にとって魅力的なことである。そのため,まとめの段階では,もし質問されたらどう答えようかと自分達がやった実験の意味をもう一度深く考える。深く考えることで,自分達は何に取り組んだのかを理解する生徒もいる。発表のための準備でコンピュータの操作に取り組んだり,指定された時間内で実験結果と考察をしっかりと伝える方法を工夫するために生徒たちが意見を交換しながらまとめていくことは,生徒たちが大きく成長する機会となっている。特に,大勢の前で発表する経験をすることで生徒の意識が変わっていく。どきどきしながら,けれども無事発表し終えたという経験はこれから社会に出ていく生徒達にとって貴重な財産になる。また,他校の生徒達の発表を見ることで,研究に対するアプローチの仕方,まとめ方を知り,次のステップの参考になる。発表会場で会場係として参加するなど,発表会の運営にかかわることも大切な経験である。そのような社会的な経験をすることができる機会を生徒たちに与えてくれている。そして,大学の先生方から,直接,暖かいアドバイスを得られると言うことは高校生にとってすばらしい体験である。次にどうしたらよいのか,どのような点に気を付けて実験すべきかがわかって大変勉強になるとともに,大学の研究者を身近に感じてくれることともなり,進学の意識も目的を持ったものとなる。また,他校の先生方からアドバイスをいただくことは生徒の研究への意欲を掻き立てる機会となっている。最近は発表を聴いている生徒達からの質問も出るようになった。もっともっと生徒の中からいろいろな質問が出てきてほしい。参加した生徒間でお互いに情報交換する光景が増えたらすばらしいと思う。

5.小学生招待発表について

 石川地区中学高校生徒化学研究発表会では,毎年,小学生の化学に関する研究の中から優秀な評価を受けた研究より3点前後が選ばれ,「招待発表」として発表されている。「招待発表」の研究は科学作品の県審査会に地区審査会代表として推薦された作品から選出され,研究発表会実行委員長名で当該児童の所属する小学校長と担任,理科担当教諭に発表会の参加案内と指導依頼を送付し,要請があれば,研究発表会の概要説明や発表方法を説明するなどの支援を行っている。各小学校とも表現・発表力をつける場と理解して協力的である。

5.1)現在までの経過について

 小学校の児童が『夏休みの自由研究』の成果を発表(他に紹介する)機会には次の2つがある。

(1)科学作品コンクール「校内展示・地区審査会・県審査会・全国審査会(学研)」等があり,各地区の作品展示会や研究成果発表会が行われている。
(2)大学教官や小・中・高校教員で組織する団体が主催する研究発表会としては次の2つがあった。
(A)生物関係の研究は,石川県小・中・高等学校生物研究発表会
(B)化学関係の研究は,石川地区中学高校化学研究発表会(招待発表)

である。そこでは研究内容を発表し,専門的な観点からの指導・助言を得ることができた。しかし,生物研究発表は,平成9年度に事務局業務見直しに伴い,事務局が石川県教育研究会生物部会に移管し,「小・中学生の部」は廃止されたため,現在は化学部門のみが実施されている。

5.2)成果について

 小学校教諭のほとんどが教育学部出身であるため,理系科目の履修が少ない等の理由もあり,理科の指導に苦手意識を有している先生方が多い。従って,当研究会所属小学校教員会員が支援し,発表準備を通して,児童はもちろん教員にも科学的なものの見方考え方や科学に興味・関心を持ってもらうことができる。発表者や家族・教員さらに友達へとその輪が徐々に広がっている。さらに,発表した児童にとって,「専門家(会員等発表会参加者)からの適切な助言を得ることができるとともに,今後の研究の進め方がわかってくる」と大変好評である。
 
5.3)問題点について

(1)小学校での学習における「化学」関係の内容が非常に少ない。
第6学年 B区分 (二単元のみ)
(2)小学校教員のほとんどが文系(小学校教員養成課程など)なので,少なからず理科実験などに対して苦手意識を持っているようであり,堪能な教員が少ないこともあり研究する機会が少ないようだ。
5.4)解決に向けての対策 
 
 当研究会として,小学校教員の会員を増やしたり,出前講座の充実,指導法の工夫などの情報や資料を提供したりする活動や研究発表会での指導・助言を充実させることが必要である。
 県教育委員会と金沢大学理学部が連携してこの問題に取り組もうとしているので,当研究会もその趣旨を理解するとともに、教育現場からの生の声を企画に生かせるような協力体制などを作る必要がある。


6.最後に

 当研究会の活動内容と当研究会が会員の方々や生徒達に対して果たしてきた成果について述べてきた。生徒の理科離れが指摘されている中,それだけにとどまらず,全国の多くの研究会において後継者たる若手の不足が言われている。当研究会ではここで述べたように多くの成果をもたらしながら,多くの会員方々の参加によって活動が続けられている。しかし,今後,より発展させていくためには若手の会員の参加が不可欠である。研究発表会に参加した児童,生徒たちが将来この研究会に参加し,次の世代へとつないでくれることを期待したい。


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